空と冗談

ゲームが好きなフレンズ

入院に至った契機

前回で触れたとおり、今回は俺が白血病になって入院するまでの契機を書く。

 

略歴

独身の中年男性。普通の会社員。給与や業務内容にも特に不満無く、つつがなく生活していた。東京で独り暮らし。

 

前兆

ある時から、通勤電車に乗ると「目まい」「汗が異常に出る」といった症状が出るようになった。

ひどい時には、下車してホームのベンチにしばらく座ってしまうといった感じで、通勤するのがとにかく億劫だった。

しかし、いざ出勤して自席に座っていると症状はおさまり、その後は割と普通に仕事ができていたので、あまり気にしていなかった。

一応、「これってなんかあんのかな」と思って、google検索で「通勤時 目まい 発汗」等のキーワードでググってみると、「パニック障害」という記事が複数ヒットした。読んでみると

  • 通勤電車でのみ辛い
  • ホームでしばらく休んでいると回復する
  • 帰宅時の電車では症状は出ない

といったような事が書かれており、確かに良く当てはまる。なので安穏と「そうか~、パニック障害ってやつか~、今度病院行ってみよう」ぐらいの認識だった。はっきり言って大甘である。

 

そうこうしているうちに、歯が痛くなった。多分虫歯か何かだろう。

職場近くの歯医者に行くと、「確かに虫歯があるが、歯茎が腫れているので今は治療できない。腫れを止める薬を出すので、一週間後にまた来てください」と言われた。そんなもんかと思って帰宅。

 

しかし、虫歯の自己主張は日に日に増していく一方で、薬を飲んでも全然痛みがなくならない。まあ、処方されたのは「歯茎の腫れを抑える薬」であって、「虫歯の痛みを止める薬」ではないので当たり前である。

しかしあまりに痛いので、俺は一週間も待てずに同じ歯医者に駆け込んだ。前回は定時後だが、今回は就業中に無理を言って歯医者に行った。それぐらい痛かった。

「すいませんが、なんとか治療できないですかねえ」と相談したところ、看護師が「ちょっと無理ですねえ・・・。というか空冗さん、なんか顔が熱っぽい感じなんですが、今って熱はあります?」と聞かれた。

無いと思っていたが、一応という事で体温計を渡され、検温すると38度あった。

 

歯医者と看護師と相談した結果、まずは内科に行く事になった。幸い、すぐ近くに内科があったのでそこに行った。検温、血液検査、触診と一通りやったところで、「まあ風邪かなんかでしょう。とりあえず薬出しとくので、今日は帰って寝て下さい。」と言われた。

 

白血病という結果を知っていると「コイツとんでもねえヤブだな!」と思われるかもしれないが、この時の俺は、「熱が引けば虫歯を治療してこの痛みともオサラバできる」ぐらいの考えで、どちらかと言うと安心していた。

いずれにしても帰宅する事になったので、いったん会社に戻り、半休の申請と、「もしかしたら明日は休むかも」という話を上司にして帰宅。

この上司が大変いい人(かつ不思議な人)なのだが、この人に関する話題は多々あるので、別の機会に触れる事にする。

 

自宅について、さあ寝るかと思っていたら、内科から電話がかかってきた。「血液検査の結果が出たのだが、色々説明したいので明日の朝イチで病院まで来てくれ」と言われた。

 

東京近郊に住んでいる方は知っているかもしれないが、東京の通勤電車は地獄である。しかも俺は通勤時にめまいがする状態だ。熱まである。ハッキリ言って、通勤時間帯の電車には乗りたくない。

「朝イチは勘弁してくれ」的な交渉をした結果、「起きたらでいいよ」と言われたので、安心してその日は寝た。

 

翌日、起きたら頭痛がひどい。熱を測ったら42度あった。俺の生涯でここまで発熱したことはない。とりあえず会社に休む旨の連絡をして、身体が動くかどうか確認する。なんとかなるようだったので、這うようにして内科まで行った。

よくブラック企業で「這ってでも出勤しろ!」というような話を聞くが、発言しているような人間はこんな状態になっても出勤するんだろうか。俺は絶対出勤したくない。

そんなことを考えつつ内科に着くと、「ちょっとウチではよく分からんから、とりあえず大学病院に行ってくれ」「今日中に絶対行け」と、大学病院の紹介状を渡されてアッサリと診察が終わった。えっ、それで終わりかよ!?お前昨日「色々説明する」っつったじゃねえか!しかも今日中って・・・「明日じゃダメなんですか」と聞いたところ、どうしても今日中でないとダメだと言い張る。大学病院まで結構遠いんだが・・・。

 

結局、大学病院には行く事にした。このあたりの記憶が非常に曖昧なのだが、多分意識が朦朧としていたんだと思う。

やっとの事で大学病院に着いて、受付で紹介状を渡したら、「今日は診察終わりましたので明日また来て下さい。」とか言われた。

さすがにちょっとキレて、「今日中に行ってくれって言われたんでここまで来た。まだ13時なのに診察終わりっていうのは納得できない」と粘ったところ、受付がいろんなところに電話した挙句、「今日は予約でいっぱいなので、4時間後ならなんとか・・・。」と回答してくれた。

 

4時間待つのは辛いとも考えたが、「今日帰って後日来るほうがもっと辛い」と自分に言い聞かせ、待つ事にした。待合室で寝ていればいいだろう。どうせ最後の診察なのだし、寝ていても起こしてくれるだろう。

 

待合室にはバカでかい電光掲示板があって、そこに番号が表示されたら診察室に入る仕組みになっていた。完全に番号順で呼ばれる訳では無かったが、電光掲示板を見る限りでは概ね番号順になっており、俺が受け取った番号と「診察室へどうぞ」と表示されている番号にはおよそ300ほど差があったんで、相当時間がかかるだろうという事は容易に想像できた。

 

しかし、30分もしないうちに、医者らしき人間が「空冗さんですか?」と声をかけてきた。番号で呼ぶんじゃないのかよ。半ば朦朧とする意識の中で、「はい、そうです。」と答えると、アッサリ診察室に通された。紹介状がきいたのだろうか。

 

診察室に通され、どんな治療がはじまるのかと思いきや、「空冗さん、本日はご家族の方はご一緒に来院されていないですか?」「ご実家にお住まいですか?」等の意味不明な質問ばかりされた。いや、俺はそんな身辺調査みたいな会話をするために無理してここまで来たんじゃないのだが・・・。

 

俺が本日二度目のキレ芸を披露しようかと思った頃合いを見計らったのか、医者が「大変申し上げにくいのですが・・・。」と切り出してきた。あっ、俺このセリフ知ってる。助からない患者とかに医者が声かけるやつじゃない?ドラマとかでよくあるじゃん、こういう展開。・・・ん?

 

「大変申し上げにくいのですが、空冗さんは白血病の疑いが大変高いです。」

「まだ精密検査もしておりませんが、早急に入院する必要があります。」

「生命にかかわりますので、ご家族がおられるなら連絡をお願いします。」

 

ここはハッキリと覚えているが、これを医者に言われた際の俺の感想は「特に無かった」である。人間は想定外すぎる事態に遭遇すると、何も考えられなくなるらしい。「はあ、まぁ、そうですか」等と、間の抜けた相槌をうっていた。

 

とりあえず入院する必要がある、という事はやっとの事でなんとなく理解できたので、「分かりました。じゃあ入院しますんで、入院の手続きをお願いします」と言うと、医者は申し訳なさげに「ウチは今、ベッドが満床で受け入れできません・・・。」と言ってきた。

 

「生命にかかわるんじゃないのかよ!」の、「いのt・・・」ぐらいまで発音したのを医者が遮って、「空冗さんを受け入れてくれる病院は既に確保済みです。」と言った。おお、すごいぞ医者。やるじゃん医者。

早速その病院の場所を聞くと、大学病院から無茶苦茶遠い。

 

「遠いですね・・・。」

「猶予がないので、今すぐに行って下さい。ちなみに、空冗さんはどうやってその病院まで行かれるおつもりでしょうか?」

「(スマホをで経路検索しながら)JRですかね・・・それが一番早そうなんで。」

「ダメです。タクシーで行って下さい。」

「えっ!?」

 

医者は「一刻の猶予も無いし、今は抵抗力が下がっているので、不特定多数がいる電車は危険。タクシー一択だ。」と言い張る。

俺が「それぐらい緊急事態だったら、救急車で運んでくれません?ここ大学病院だし、一階に救急車停まってましたよね?」と言うと、医者から「救急車はそういう時の為のものではないので・・・。」と言われた。

 

ここで俺はガチギレした。「いや、さっき自身で『生命にかかわる』って言いましたよね?それで搬送できないんですか?じゃあ俺が病院出た瞬間にその場でバタッと倒れて119番すればいいんですか?」と詰め寄ったが、それでも無理だという回答だった。

 

本当に119番してやろうかとも思ったが、文句を言っている時間も惜しいので言われた病院に行く事にした。

「分かりました。タクシーで行きます。」と言った俺に「あ、一階で会計を済ませてから行って下さい」と返して来た時にはさすがにぶん殴ってやろうか本気で考えたが、そんな気力も残っていなかった。

 

たかだか数分会話しただけで数万円の会計が出てきた時には「クレーマーっぽかったからボラれているのか?」と不安にもなったが、とりあえず会計を済ませ、ベッドが確保されているという病院に向かった。

 

タクシーの中で会社に電話し、「なんか白血病とか言われたので入院する事になりました」と告げる。手続きが色々あるらしいが、そういうのはやってくれるらしい。電話を切ると、タクシーの運ちゃんが「白血病なんですか?大変ですねえ・・・」と話しかけてきたが、「はあ、まぁ、そうなんです」ぐらいにしか返答できなかった。

 

病院について紹介状を渡すと、受付で1時間ほど待たされた。マジかよ、ベッド確保されてるんじゃないのかよ。もしかしてまたたらい回しにされるのかよ。

そんな事を考えていると、無事(?)ベッドに案内された。案内されたのはいいのだが、すぐ横になってくれという。ちなみに俺はその時スーツ姿だった。背広だけは脱いだが、こういう時って入院の時に着る服を貸してくれたりするんじゃないの?って言うか俺、着替え持ってるんだけど。

 

聞けば、服は後日貸してくれるらしいが、今はとにかく点滴と骨髄穿刺をするので、スーツ姿でいいから横になってくれ、との事だった。

 

長くなってきたので、今日はこの辺で。次回は普通に生きていればまず馴染みのない「骨髄穿刺(こつずいせんし)」の話とかをしようと思う。